RESEARCH AND DEVELOPMENT
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溶射材事業部溶射材事業課 係長※
H.I
富山大学 工学部
物質生命システム工学科
※学位取得支援制度を活用中
※取材当時
私が就職先にフジミを選んだ理由は、大学で粉体プロセス工学を専門に学んでおり、知識や経験が活かせると思ったことと、そして何より、半導体デバイスの製造に必要な研磨材を供給しているフジミの将来性を感じていたためです。私が就職活動をしていた当時すでに、PCの普及などによる半導体需要の増大は予測されていましたが、今ではIoTやAIなどの進展で、当時予測されていた以上に半導体産業のフィールドは広がっています。
私は入社以来、溶射材事業部で、半導体製造装置や航空機のギア、エンジンの製造に用いられる溶射材の開発に取り組んできました。溶射とは、金属やセラミック、あるいはそれらの混合粉を高熱で溶かしながらスプレーコーティングする技術です。溶射によって、基材に耐摩耗性や耐腐食性、耐熱性などの性能を付加することができます。今でこそ、さまざまな産業分野で当社の溶射材が使われていますが、私がフジミに入社した頃は、溶射材メーカーとして新規参入したばかりであり、社内でも新規事業立上げの位置づけでした。当時はフジミの溶射材をお客様に採用頂くには、品質面、性能面で先行する競合企業の製品を上回ることはもちろん、溶射業界の中ではまだ知名度のなかった当社の技術力を信頼頂く必要がありました。そのために私たちは、開発した技術を積極的に学会で発表し、論文を投稿することで業界内でのフジミの認知度を高めて行ったのです。 実際の溶射材の開発では、原材料の選定から製造工程の開発、出来上がった製品の分析まで全てに携わります。苦労も多いですが、最終的に目標以上の数値が出たときの達成感は格別です。「本当の世界最先端の数値を達成した。この結果を知っているのは研究室にいるこのメンバーだけ。」という、研究開発者にとって思い出深い、記念すべき瞬間となるからです。
溶射材事業部では、現在、産官学連携の取り組みのひとつとして、金属3Dプリンターで使用する超硬材料の研究開発に取り組んでいます。溶射材開発で培った金属とセラミックの複合粉を作り込む複合造粒技術が同分野に応用できると考えたためです。3Dプリンター用の成形材料は樹脂や金属、セラミック等、多様な製品が登場していますが、超硬材料は世界中でもほとんど未開拓の分野です。これが実現すれば、例えば超硬金型や超硬工具の製造時間の大幅な短縮や、今までにない複雑な形状の超硬製品を造り出すなど、今まで解決できなかった技術的課題を解決し、世界の製造業の発展に大きく貢献できると考えています。
一方、産学官で連携し、研究開発に取り組む中で、私は自身の学術的な知識や考え方をもっと強化すべきだと感じるようになっていきました。大学の研究者と共同で新しいものを作る際に、仕事を通じて得た経験則だけでなく、要素技術や科学に関する深い見識も必要だからです。経験則では「なぜ、そうなるのか?」の原因を理解しないまま進めることになります。研究開発を前に進めるために、それらを減らしたいと思うようになったのです。上司に相談したところ、私の思いを理解していただき、フジミの学位取得支援制度の利用を勧められました。私は学部卒でしたが、修士ではなく博士号取得を目指すこととし、現在はフジミでの業務と並行して、大学に通いながら研究活動を行っています。
今後は、学術的にも技術的にも金属3Dプリンターの超硬材料で世界初、業界トップを走り続けること、そしてそれが、フジミの強みとなり、やがて社会に貢献できることを目標としています。